韓国の友人Lee

6年ぶりに韓国の友人Lee宅を訪れた。彼女とはルーマニアで知り合って以来、時折メールで交友を続けている。6年前には父の出張に合せて母と韓国に数泊の旅行に行き、其の時には両親もLeeの家にお邪魔して一日がかりで家族総出で何種類ものキムチ作り体験をさせて頂いた。母は観光地をまわるよりも日韓主婦交流ができたことが面白かったらしく、その後も時折その話をする。あちらの両親は英語も日本語も話せず、私の両親も韓国語が話せないので共通言語はなかったのだが、父は父であちらの親父さんと酒を酌み交わして満更でもなさそうだった。

前回以来、何やらあちらの両親に気に入ってもらったようで今回も時間がなくとも少しで良いから立ち寄るよう強く歓迎を受けた。

ソウル駅から北に1時間、ソウルよりも北朝鮮国境に近い街に彼女の家はある。友人Leeはテポドンなんか北朝鮮に近すぎて着弾する心配はない代わりに戦車が怖いなどと言っていた。

あちらの母曰く「失った息子が帰ってきた」かのような熱烈歓迎を甘受した。なんとも豪快な母親で、手料理はどこで食べる韓国料理よりも旨い。本当に旨いもんだからあれもこれも食べる日本人の若者と、自分の手料理を嬉々として食べるのを見て喜ぶ韓国主婦。そんな間柄である。質素な家で大きくも無いのだが、大層落ち着く家である。

そういえばチョナンカンが逮捕されたんだよねえと話題を出してみたら、左でにこにことチゲを食べていた親父さんが急に大きな声で「チョナンカン ウンタラナンタラセヨー」と思わぬ反応をしてくれた。「びっくりしたなあ。でも酔って裸になったぐらい大目に見てやれよ」と言っていたらしい。

満腹になった後も夜食を持たせてあげようか、京都の緑茶を持っていけ、体を洗うスポンジはいらないか、韓国海苔でも持って行け、と一人暮らしの息子が下宿地に帰るのを見送る母のような気遣い。韓国人の客をもてなし尽くすこの姿勢には頭が下がる。いつも世話になることのほうが多くてなかなかお返しができずにいるのが心苦しい。

食後はLeeが教会でオルガン伴奏をするというので練習とミサにお邪魔した。女性は皆比較的話しかけてくるのだが、男はどこか恥ずかしそうで照れているのが多い。少し気恥ずかしそうに日本語でハジメマシテと声をかけてくれる。ミサの前では今日は日本からお客さんが来ていますなどと紹介されて困ってしまった。その後はさらにLeeの新しくできた彼氏も紹介してくれた。

反日とか嫌韓なんてものはこうして個々人で交流していると全く感じられないのだよな。仮にどれだけ日韓関係が悪くなろうと、Leeとその家族を思い浮かべるだけで韓国人を嫌うことはない。一人の友人を持つだけで偏見や差別は消える。イスラエルパレスチナ、インドとパキスタンギリシャとトルコ、チベットと中国、イラクとイラン、それぞれに友人がいるだけで民間レベルの差別や摩擦は随分と減ると思うのだが。国が教育を通じて特定他国への悪意を煽るなんてのは言語道断。

朝は2時間もかけて友人宅を訪れるのが大層億劫に感じていたのだが、振り返ると随分と気分転換ができ肉体的には疲れたものの、一番必要としていた心の滋養が得られたように思う。