フィリピン男のプライド

6月後半の給料と退職金を支払い、IDやエレベーターカード、携帯電話を返却してもらった。
SSSも遡って払っても良いのでSSSの登録証を持ってきてくれと伝えた。

訴えてやるなどと息巻いていた勢いは無く、やけに沈み込んでいる。口を開いたかと思うと、もっと揉めると思って次の勤め先を辞退してしまったことを打ち明けてきた。「Sir, I’m so stupid…I made a mistake」

阿呆か。

そもそも金がもっと必要だから値上げに応じてくれないなら辞めるという話だったのに、明日から仕事がなくなってまで何の為に辞めるのやら。辞退したのが昨日の話ならばまだ間に合うかもしれないから問題が解決したのでまた雇ってくれるよう次のフランス人雇用主に伝えるしかないだろうと助言すると、もう「辞退した手前恥ずかしくて言えない」とのこと。

フィリピン人の男にたまに見受ける嫌気が差す一要素に、この糞の役にも立たないチンケな自尊心や体面というものがある。別居する娘や生まれてくる子供の為に金が必要だなどと迫ってきたくせに、自分の過ちを知られ格好悪いからすがりつくのは出来ないと言う。

呆れを通り越して怒りを覚え、いつの間にやら説教していた。次の雇用主が前の雇用主と揉める様な男を雇いたくないと思うかも知れぬから、なんなら自分からフランス人に弁解してやってもいいから仕事を確保する為に頼み込めと。一家の主なんだから娘や彼女のことを第一に考えて収入を確保しろ。出産育児費など支出は増えていくのだから計画的に備えていけとクドクドと説教。

訴えてやるなどと息巻いていたのに最後には、「ボス、ありがとう」などと握手を求めてきた。なんなんだ、これは。憎みきれない愛すべき中途半端さでもあるのだけれども、もう少ししっかりしてくれや父ちゃん。