酸いも甘いも

とあるいいかげんな仕事をしていた人は、突如会社を去ることが知らされた。転職先で勝ち得た更なる高報酬を考えれば、残された者の恨み節なんて屁にも感じないだろう。立つ鳥、後には糞だらけ。勝ち逃げ。今、その人に人望や評価など無形のものがどれだけ残ったかは知らないが、手元に金と高報酬の仕事があるのは形を成した事実だ。

勝ち逃げに絡んで話は飛ぶが、豪ドルが2ヶ月で30%も下落した。時価評価額の過半が数週間で吹き飛んだ会社もざらにある。一連のサブプライムローンから始まった金融危機は米国資本主義が単なる歪んだ富の再配分機構としてしか作用していなかったことを再認識させてくれたように思う。低所得者向けローンと言えば聞こえは良いが、証券会社らが高利回りの過剰なリスク商材を証券化して迷彩して売り飛ばして稼いでいたに過ぎない。いまさら素人が言うまでもないが。

彼らの報酬は数千万をざらに越え億に届く人も多い。社員平均6000万円〜8000万円。なんだそれは。数年前の話になるがそもそもゴールドマンサックス日本法人なんざなんで新入社員の初年度ボーナスが1千万円もしたのやら。彼らが過酷な仕事のストレス発散に、自分の稼いだ金だから文句は無かろうと多くを散財してまわったのではなかろうか。自らが生み出した価値に見合わない給与は泡銭のように使われただろう。彼らが社会還元性のある投資をしていたとも思えない。昨今職を失った金融業界の人々にしても、自分も勝ち逃げする機会を失ったことを嘆くだけで負担を強いられる人を省みることはないのではなかろうか。彼らを救う必要はないように思う。小生は大学時代に金融工学なんぞをかじってみたり、多くの友人がその手の証券会社に就職したがいまだにあの業界が嫌いである。

彼らはルール違反をしていない限り単年度の業績を元にボーナス等インセンティブが与えられる。よって後に破綻リスクがあろうと単年度中に業績を稼げば数千万円、時には億の報酬が得られる。その一方で破綻したとしても最悪クビになるだけで個人弁済するわけでもない。ならばなおさら攻撃的なリスク商材で短期に売り抜ける動機付けになる。

しかし彼らの例は極端だけれども、単年度の業績を元に評価されると言う意味では格段に保守的なうちの会社でも大差ないように感じる。どんなに適当な仕事をしていようと、組織に混乱を招いていようと、直属の上司の評価がよければその人のキャリアにはさほど問題は無い。やっかいなのは直属の上司は海外にいることが多く、目が届かないことだ。他の責任範囲に無闇に口出しをしない暗黙の了解もあり、地域組織内では総スカンをくらっても、海外の直属上司からは覚えが良いというケースがざらにありうる。そんなことをしていたら最終的には自分の業績に跳ね返ると言う声もあるが、昇進してさらに高待遇で転職していく人を見るにあたり、勝ち逃げは可能だと言う感は否めない。

自分の中でここ暫く、嫌悪感がくすぶっていた。しかし一歩引いて客観的に捉えてみると少し見えてきたことがある。どうやら自分自身が自分の会社の幹部ならば当然、皆が優秀な人格者で仕事に対しても他人に対しても真摯だろうと決め付けていた節がある。青臭い期待を抱いていたに過ぎない。世の中を広く見渡せば、至る所不条理だらけなわけでマニラの貧富の差や産業の寡占ぶりを見ても、日本の特殊法人の実態を見ても、中国、ロシア、ベトナムなどの共産主義国における汚職腐敗の程度を見ても、結果から遡れば世の中が善人だらけなわけがない。だったら世の中もっとましになってるはずだ。学があるから、地位が高いから、出自が確かだからその人は真っ当だと評する人がいたら、そいつは大層、御目出度い奴だ。無論、うちの会社だけが利己主義や腐敗から無縁であるわけもない。

甘い期待を捨て、尊敬できる先輩も唾棄すべき人も至るところに綯交ぜな現状を受け止めた上で、では自分はどう振舞うのか、どう生きるかというだけの話だ。他所は他所、自分は自分。おかんによく言われたことだ。他の人もしているから自分もというのでは、自分も乗り遅れまいとして高給につられ、終には職にあぶれたリーマン社員と本質的に変わらない。

まわりが絶えず正しいことをしてくれることを期待すべきではない。自分が守りたいものは自分で守らないと駄目なのだな。同様に自分の信ずべき価値観も自分で見出さないといけない。まだまだ世の中を知らんと言うか我ながら青臭いと言うか。


真贋泰国「 HOLLY SHIT! 」乃図 於第一級王室寺院