NewYork MetropolitanMuseum


メトロポリタン美術館を1日訪れて正直ショックを受けた。大英博物館エルミタージュ美術館と並ぶ世界的な博物館である。絵画の量と質ではルーブルに敵わないが、物品財宝を含めたら相当なものだ。6時間かけても回り切れず、その財の集積振りに何やら寂しさを感じた。

エジプトの財宝から始まるのだが、あまりの質と量にやりきれない気持ちになってきた。ここまで他地域の文化財を収奪し尽くす必要があるのだろうか。カイロ博物館やルクソール博物館を見てきたが、それ以上のものが収蔵されている。何を考古学的価値とするかは判断しかねるが、単純に眺めて破損が少ない美品はエジプト本国よりもメトロポリタンのほうが多いように思う。おかげでエジプト本国はすかすかだ。

文化的ゆかりもない地に、壁から引き剥がされた装飾が並べられている。墓を暴き持ち出した王のミイラは、内臓も全てバラされ民衆の前にさらされている。文化財以前に墓であり遺体であり埋葬品であろう。欧州王家の墓に対してはしないことを平然とするのは、どこの現王家とも繋がりがないこともあるだろうが、他文化を単なる研究対象と財宝としか見てないこともあるのではなかろうか。

列強がこぞってアフリカやアジアを植民地化した時代、ドイツ、イギリス、フランスなどがエジプトや中東の国々の文化財を収奪して回った。完全に早い者勝ちの概念。日本も大谷隊だかを敦煌に送って仏教経典を収奪している。

抜粋
「イギリスの探検家・オーレル・スタインである。1907年、スタインは王円籙を言いくるめてわずか馬蹄銀4枚(約500ルピー)の代価に数千点余りの経典の数々をロンドンの大英博物館へと持ち帰った。この功績によりスタインはSirの称号を受けている。翌年に今度はフランスのポール・ペリオがやって来た。ペリオは中国語に精通しており、山積みの文献の中から特に価値の高いものを選んで数千点を買い取ってパリへ持ち帰った。

この話を聞いた清政府はようやく敦煌文献の保護を命じ、北京へと持ち帰らせた。しかし王円籙は一部をまだ隠し持っており、その次にやってきた日本の大谷探検隊(1912年)やロシアのオルデンブルグ探検隊(1914年)に数百点ほどを渡している。その後やってきたアメリカのウォーナー探検隊(1924年)は壁画を薬品を使って剥いで略奪していった。」
エジプト史上、最も力を振るったハトシェプト女王の像の顔がメトロポリタン博物館にあったが、後に胴体が大英博物館に収蔵されていることが判明し買い取っている。既に頭が落下していたのかは定かではないが、運びやすい首や顔だけを削り取って持ち帰ったケースもある。
滅びた国の富は、後の力ある国家に収奪蹂躙されるのは世の習いということなのか。

他の美術館同様、メトロポリタン博物館に運ばれたことにより、適切に修復管理維持されているという弁も聞く。もちろん、偶像崇拝を禁ずるイスラム諸圏では遺跡が適切に保護されないまま売り払われたりしてしまう可能性もある。エジプトでも遺跡の彫像の目が悉くえぐり取られている遺跡があった。バーミヤンはなんら統一する力の無いタリバンの示威行為の為に破壊された。イスラム教に限らず体制の不安定な国では文化財にリスクが付きまとう。
保管状態の完璧なメソポタミアの有翼人面獣身像を見てしまうと、これが現地に置かれたままだったらこの完全な姿のままでいられたかわからない。ここは一つ、貴重な文化財がきちんと修復管理されていることを良しとしよう。しかしアメリカ人が気軽に世界中の文化財を見れる一方でエジプト人やシリア人、ペルシャ人などは遠国にある自地域の文化財を自由に見ることは叶わないのである。こともあろうか新大陸のホテル滞在費のとても高いNewYorkに来ない限りは見れない。
幸いにも裕福にしてメトロポリタン博物館を訪れることが出来た彼らは、日本の文化財を見て私が感じたのと同じ寂しさを少なからず感じるのではなかろうか。今更返還すべきかはわかりかねる。返還しても十分な保護がなされるかわからない国地域も多い。ただ、自国文化のルーツや結晶を他国に持っていかれた事実は寂しい。これは西欧に対して日本がバブル期に買い占めたゴッホの向日葵などの西洋絵画とて似たようなものかもしれない。

ギリシャの彫像、フランス王家の調度品、日本の戦国武将の鎧兜、浮世絵など各国の国宝級が一堂に集う。この一極集中が怖い。アメリカがイラクを攻めた際、バグダッド国立博物館に収蔵されていた何万というメソポタミア文化財が民衆により略奪され、大半が帰ってきていない。少なからず損壊したことと思う。永遠な国家などありえない。アメリカにいつ災難が来るとも限らない。あとはこのメトロポリタン美術館の無事を願うばかり。

レンブラントゴッホ、ミレー、ゴヤゴーギャン、コローなどの巨匠以外にも小生の嬉しいところではJeanLeonGeromeの絵画も展示されていた。本物をこんなところで拝めるとは。非常に写実的な画を描く人だが、作品を間近で見ても荒さを感じない精緻な筆遣いだった。

SirJohnSingerSargentの「MadameX」の展示の仕方は秀逸だと思う。


素晴らしいの一言に尽きる。厳選したものだけを展示している感をうけるが、それでも広大は博物館を埋め尽くす量がある。