Toredo

こんもりとした丘の上に旧市街が乗っかっている。街の規模からすると大聖堂やアルカサルの規模は明らかに大きすぎる。教会の数も人口比に対して多すぎる。地方都市や農村の教会と異なり、公共施設としての必要性から建てられているわけではないことは明らか。

ローマ人、モーロ人、そして今の流れを汲むカトリック教徒と支配者が変遷し続けたスペイン。カトリック教徒間ですらアラゴンカスティーリャ、レオンなどの王国間で争い合い、近代ではフランスに支配された時代すらある。激しい勃興の中、各時代の王もローマの遺構や駆逐されたイスラム教徒の宮殿を眺めながら栄枯盛衰を儚んだのかもしれない。最盛期がどんなに華やかであろうとも王朝の永遠は微塵も保障されない。

自らが生きた証をこの世に留めたいとの考えは珍しくない。結局彼ら王や支配者が名を残す一番の方法が教会や宮殿を建立することなのではないだろうか。現代において別段歴史に格別思い入れが無い限り、目ぼしい歴史建造物を訪ねたときにしか、これはどの王が建てたもので他に何をした王なのかなど人々の口にされることは無い。財政を考慮し、不要な宮殿や教会の建立を慎んで良政に励んだ王がいたとしても、歴史上の大きな事件や転換期の主役でもない限り、そのような王が後世の人々に語られることなどほぼ無いように思う。それは恐らく昔も一緒であろう。

観光地やら駅の構内やらに「○○参上」だのハートマークだの落書きで足跡を残す輩がいるが、林立する教会や王宮は各時代の支配者による豪勢で壮大な落書きのようなものかもしれない。カルロス5世参上、のような。