惨事

とある同僚の家が火事で全焼した。小さな住居が密集するその地域ではそこらの電柱から盗電する人が多いのでショートして火事が起き易いらしい。そんな地域に住んでいたその子は裕福な家の出ではなく、フィリピン大学を奨学金で卒業し、一家全員を養っている。

火の回りは思いのほか早く、会社のラップトップ以外何も持ち出せなかったという。なんとも嘆かわしいのが、焼け跡に泥棒が入り金になりそうな物品が既に盗られていたこと。音大生の弟にとって大事な楽器も盗られており残念極まりない。いくら貧しくとも人の不幸につけこまねばならないものか。耳の不自由な父の補聴器も消失してしまい非常に厳しい状況にある。

とあることからそんな惨事が遭ったことが発覚した。本人は2週間皆に隠していた。どうすべきか、どの程度援助すべきか判断しかねたので様子を聞いてみたのだが、思ったよりもしっかりしていてこちらが戸惑った程だった。なんで笑顔でいられるのか。なぜ笑顔で話せるのか。

しかし個室に入って詳しく火事で失ったものや早急に必要な品々、家の経済状況や貯蓄を聞くと溜まっていたものが溢れ出るように泣いた。精一杯、気丈に振舞っていただけのこと。何も大変な経済状況の子がよりによってこんな目に遭わなくとも良いものを。

皆の対応にも正直戸惑った。経済的に困難な人も周りに珍しくはないのかもしれない。組織全体で義援金のようなものを集めたのだが集まったのは3万円程度だった。補聴器を買ったり楽器を買ったり生活必需品を揃えるにはとてもではないが足らない。会社から特例の給料前払いの許可を取りつけ、彼女と働いたことのある欧州の同僚にも義援金を募ることにした。15万円ぐらいは集まるのではないかと思う。先進国の人達がお金を渡しすぎるとネガティブに思われないかとの懸念も聞いたが、誤解を恐れず可能な限り支援してあげるほうが良いと自分は思っている。ネガティブに思われたくないから出し惜しむなんて彼女からしたら有難迷惑に違いないから。自分もそれなりに包むことにした。嫁曰く、幾ら包むかは自分が納得できるか次第。確かに彼女の為だという思いの裏には自分自身が後悔したくないという思いが半ばしているのだろうな。

それにしても何もあんなに苦労して頑張っている健気な子に起きなくても良いものを。不条理。なんなんだろうね。