東野圭吾作品

さすがに熱も引き出してくるとそう十何時間も寝ることも出来なくなってくる。通常勤務日のごとく7,8時間働き、残った時間で「幻夜」「放課後」を一気に読破した。

「手紙」「秘密」あたりから東野圭吾に興味を持ち始め、遡るようにして作品を濫読してきたが、どうも遡るとどこか読後に心に澱が溜まるような作品が多い。東の圭吾の作品はここ3,4年のもののほうが小生の好みだ。この作者、電装に勤めながら執筆し、20代後半で「放課後」が江戸川乱歩賞に入賞したのを機に退社し執筆業に専念し始めたらしい。しかし10年近く出版しても増刷の掛からない不遇の時代が続いたようだ。10年ほど前から推理小説愛好家の間で認知を得、ここ5年ほどで加速度的に人気が出てきた作家だとの印象がある。

若い頃の作はどこか典型的なアリバイトリックや謎解きが主眼の推理小説で、かつ男性目線で語られているのが一目瞭然に思う。この手の小説に性描写など全く期待していないので下世話な印象が強くなるだけだ。放課後にしても、女子高教師と言う設定の中で「大人の女に変わりつつある」だの冴えない教師の設定でありながら快活な優等生女生徒に慕われたり、好かれたり、キスをされたりと、少しイタイ著者の願望というか幻想が散りばめられている。それが15年以上が経つと、謎解きの要素は残しながらも加害者やその社会を取り巻く環境を描くようになってくる。ものによっては人情モノに近い。

10年近い売れなかった時期に堪え、骨太で少しほろりとくるような小説を書く超売れっ子作家に大成した東野圭吾はやはり素晴らしい作家だと思う。しかし彼の古い作漁りは少し興味が醒めた。心理描写や登場人物を取り巻く情勢描写が豊かな新刊を楽しみに待つことにする。