カジャネムア

一言で言えば、感動を与えられる宿。50カ国ほどのホテルを仕事や私事で泊まり歩いてきたが、この価格帯でここを超える宿を未だ知らない。モロッコのリヤド、スペインの貴族邸を改修した宿などいくつか感動した宿はあったが今まで泊まった無数の宿の中で1,2を争う。


チェックイン時、天蓋付きベッドの上に花で描かれたハートマークが歓迎してくれる。天蓋は四角い枠のものではなく、円の吊り下げ式のものでヴィラの小屋組みの高さを活かしたもの。ベッドルームはキングサイズベッドルームを優に収容する広さで、2面に大きな窓がある。全体は白い壁と木目調の家具を基調に自然で落ち着きのある雰囲気に纏められている。前面には十分な広さのテラス、右側面には広々とした浴室がある。


浴室は6畳はあろうかという広さで、2人でゆったりと入れる湯船が窓際に設けられてある。床は砂利石に飛び石が配せられ、足元がびしょびしょと濡れる心配も無い。高温の湯が尽きることなく出ることはもちろん、据付のシャワーヘッドとホース付きのシャワーヘッドの両方が据えられているのも嬉しい。アメニティーは一通り揃っている上に、虫除けジェルが備えられているのがバリならではか。シャンプーやコンディショナーが陶器の壺に入っているのは妙案。プラスチック容器よりも立派に見えるし、コルクで封するだけの容器なので宿泊客に根こそぎ持ち帰られることもない。経済的な工夫である。

朝食。American、Continental、Indonesianなど4種類から選べ、さらにそれぞれの種類の中でも細かに自分の好みの品を選べる。フルーツジュースはマンゴー、パイナップル、バナナ、西瓜、ミックスから。Indonesianならばナシゴレン、ミーゴレン。Continentalならばダニッシュにするか、クロワッサンにするか、Dailyならばバナナやパイナップルのパンケーキなど。フルーツもヨーグルトかレモンと一緒に供してくれる。食後の飲み物もバリコーヒー、ネスカフェ、リプトンティー、バリティーから選べる。量もさることながら味も良い。そしてなんとも嬉しいのがヴィラのテラスまで運んでくれるのである。



無料で水、お茶、コーヒーが飲める。お茶好きの日本人には有難い。また、さらに財布を痛めずに夜にでも気ままに自分のヴィラのテラスで月を眺め、風を愉しみながらお茶を飲めるのはなんとも気分が良い。

立地も素晴らしい。モンキーフォレスト通りに面しており、王宮にも徒歩圏であり、宿の周辺には美味しい洒落たカフェレストランやスパが豊富にある。カフェワヤンの隣というのも高得点。それでいて宿の敷地内に一歩入ると途端に静かで緑に包まれた空間が広がる。観光拠点としては申し分ない。



送迎無料。Ubud村内は公共交通が無く、信頼できるタクシーも捕まえづらいのでホテルからUbud中心への無料送迎を行っているホテルが多い。しかし中級ホテルだと他の客が使用中であるなどの理由で使えない場合も多いと聞く。ここカジャネでは王宮とモンキーフォレストに徒歩で行ける中心部にあるにも拘らず、嫌な顔せず常に無料送迎を行ってくれる。送ってくれた際には、帰りの迎えが必要かを聞いてくれる。そして舞踊を鑑賞に行ったならばその感想を、スパに行ったならばその感想を聞いてくれたりと実に友好的だ。

さらに無料レンタサイクル。カジャネムア1号、2号とナンバープレートのついた自転車を無料貸し出ししてくれる。これで大抵の場所を自由に周ることが出来る。

しかし何にも増してカジャネムアを魅力的にしているのは接客だろう。全員ではないが何度か顔を合わす従業員は私達の名前を覚えてくれていた。客室数が20弱だということもあるのだろうが、宿泊客一人一人を大事にする姿勢が見られる。また、従業員の笑顔が非常に良い。従業員は20代と思わしき若い男女が多い。素朴で実に自然に笑顔で挨拶をしてくれる。丁寧な接客用を言い放つのではなく文言と態度が一致しているのである。これはそこらの5星ホテルや高級リゾートに勝る点である。態度に余裕があり、マニュアルに関係なくそれぞれが自主的に、客がバリを楽しめるよう心を尽くしてくれる。少し辺鄙な場所にあるバリ舞踊会場に送ってくれた際にも、わざわざ車から降りて公演の有無を確認してくれた。「従業員が楽しそうに働いている」ことがいかに重要であるか学んだように思う。

他に目に付いた点としては、蔓で編まれた籠と帽子が無料貸し出し用に置いてある、薄手のナイトガウン、スリッパ、蚊取り線香が供されている。

1泊2名1万5千円程度。ネカ美術館と経営を一にするネカ氏の宿である。ちなみに宿泊者にはあの素晴らしいネカ美術館の入場料40,000Rpが無料になるという特典もついている。開宿してまだ数年。今の素晴らしいサービスが変わらないことを切に願う。バリの定宿に決定か。

自分で読み返しても写真を見ても実際に肉眼で観た素晴らしさは表現できていない。伝わらない。ここは再訪する際には泊まるようにしたい。