名も知らぬ教会

教会への行き方は39階から遠くにみて見当をつけただけだった。左に曲がっていく道沿いに歩いていき、ここらへんかと見当をつけて右折した先に教会は在った。


写真奥手の川に架かる橋の右下に見えるL字の赤屋根の建物の横である。うむ。小さすぎてわかるまい。

石造りの教会は一目で100年は優に経っていることがわかる。もしかしたら300、400年は経っているかもしれない。



フィリピンにはスペイン統治時代の石造りの立派な教会が散在している。しかし概観は立派でも中は屋根がプレハブだったり、がっかりさせられることも少なくない。世界遺産だからと期待していくと肩透かしに合う。世界遺産だからとさぞかし丁寧に保存されているかと思うと心配になる。写真で観るのが華、という類だ。

しかしここの教会は中も白いアーチ天井が架けられ、綺麗に清掃が行き届いていた。こじんまりとした教会だが、地域のコミュニティの場として大事に手入れされていることがわかる。こんなところからもここのバランガイが比較的安全で住民の意識が高いことが察せられる。わざわざここ目当てに観光客が来ることにはならないだろうが、自分の地域にあったら嬉しくなる、そんな教会だ。

席に腰掛けていると、オルガンの演奏と賛美歌の練習が始まった。男は20代後半で肩幅のある肉付きの良いそこらの貧乏学生のような男。声の柔らかさからもしかしたらバクラ、オカマさんではないかと思う。それにしても実に良い声色で歌う。オルガン奏者も痩せぎすの白い下着のようなシャツを着ただけの頬骨の突き出した男なのだが繊細な演奏をする。身なりからは想像できない素敵な演奏だったので虚を衝かれ、聴き入ってしまった。

どうやら葬儀のリハーサルだったらしい。棺桶が運び入れられてきたのでそそくさと退散した。