選挙近し煩し

もう何事かと思った。選挙の街宣車がとんでもない大音量で、「No Body No Body But You」とワンダーガールズの曲を流し続けている。

しかもわざと徐行して道を詰まらせているのか知らないが、遅々として進まないので彼是半時間も無限リピートで聞かされている。周辺に赤い服を来た大勢の活動員が動き回っているので道を詰まらせるのを承知なのではないか。時にはステージを設置して完全に道を塞ぐことさえあるという。

サビの歌詞からして「選挙民のあなただけのことを考えている」というメッセージなのだろうか。都合の良い歌を見つけたと自賛している誰かがどこかにいるのかもしれない。甚だ迷惑だ。大音量でそれだけ流していても候補者の情報も政策も何も伝わってこない。せいぜい沿道の人は赤いテーマカラーの候補者だと知る程度だろう。黄色が元大統領コリーアキノの息子であるように。

選挙のラリーと呼ばれる街頭活動に応援員として駆けつけ協力すると、一人500ペソから1000ペソを現金でもらえるのだという。貧しい層は選挙の日だけが青い紙幣を手にする唯一の日なんて言われるぐらいだ。地方の選挙では求められた候補者に投票したら100ペソもらえるとか、酷い場合には銃で引っ立てて無理やり特定候補に投票させるなんて話が新聞に載っている。過程を無視して投票によって選んでいるという事実だけをもってして民主主義を名乗る阿呆らしさ。

結局、優遇措置の欲しい実業家や業界団体が有力候補者に多額の寄付を施し、その助力で票を買って当選した大統領はそれがいかに正当性や経済合理性を欠いていようとも支援者への借りを返さねばならなくなる。そうして庶民の実益を重視した政策なんてものにはならなくなる。庶民からしたら、その構造がわかってたとしても、自分が受け取るのを拒否したところで他の大勢が受け取る中で自分が損するだけという諦観があるのかもしれない。願わくば有権者が投票を通じて政治家を取捨選択すべきなのだろうが、この貧しい国で選挙がもう少しは機能するように基本的な制度や規制を設ける必要がある。結局これは仕組みを作る為政者の責任だわな。

小難しい政治の仕組みはよくわからない。しかししかるべくしてフィリピンは発展しないのだな。公職選挙法だの政治資金規正法だのがある国は随分とましだということがよくわかった。