ラストダイブ

大学の友人がアジア開発銀行に出向し6月からマニラに転勤となった。考えてみれば随分不思議な巡りあわせだ。そういえば彼はルーマニアに住んでいる時にも訪ねてきた。しかし6月はなんだかんだ出張などであまり時間も取れず、なんだか申し訳ないような気分になっていた。そこで彼の夢溢れる南国生活をサポートすべく、アニラオに連れて行った。引継ぎはしっかりせねば。

もう大学時代といえば10年も昔の話。お互い当時から変わっていないようでも、東京と神戸で殆ど接点無く過ごした10年にはお互いの知らないことも当然多い。彼に対して抱いていた印象とは異なるのだが、何年も前にダイビングライセンスは取得済みで、ゴールデンウィークには単身海外に潜りに行くほどダイビングには入れ込んでいるそうだ。これはダイビングに連れて行かぬ手は無い。小生は任期の三分の四を過ぎて初めて潜った。着任して暫くは忙しく、勝手の分からぬルソン島南端で自分で宿なども調べ、ライセンスを取るのは心理的ハードルが高かったが、初期に誰かに連れて行ってもらったら勝手は違ったような気もする。

近場の何度も潜っているスポットをまた潜ったのだが、海というのは改めて人知が及ばないというか、良くも悪くも人の期待通りには行かない世界だ。以前もっとも素晴らしかったスポットは今回はなんとも味気なかったが、前回それほどでもなかったスポットが今回は鮮烈な印象を残した。

ハリセンボンというやつを初めて素手で触った。萎んできたハリセンボンを軽く揉むと抵抗すべく風船のように丸々と膨らむ。針もさほど尖っているわけではなく、なんだか愛嬌がある。

岩場の下には青白い尻尾を持ったエイがいた。こやつの針はハリセンボンとは違い毒がある。オーストラリアの名の知れたクロコダイルハンターは不覚にもエイに刺されてこの世を去ったことを思い出した。

これがラストダイブだろうか。寂しくもある。次は帰国後に慶良間でも潜ってみようか。