バリの石像


ウブドゥの街中には至るところに苔むした古い石像が溢れている。

苔むしているというのが小生にとって重要な点である。悠久の時の流れ、静謐さ、普遍性を感じるには石像が苔むしていないと、雰囲気が出ない。ぴかぴかの角の立った肌の白い石像では人工的な印象が強い。雨によって削られ、熔けて丸くなっていれば尚、良い。「ナレ」とでも言うのだろうか。ぼろぼろと粗目の質感なほうが良い。藻類や粘菌、苔でまだら模様になっているようなのが良い。

君が代に「苔のむすまで」と詠われるぐらい苔は相短期間には生えない。苔むした石像を日本で求めるのは難しいのではなかろうか。日本では湿度の高い時期は限られているし、田舎へ行けば神社や寺、あるいは峠道に苔むした像があるいは打ち捨てられるように置かれているのだろうが、それらを失敬しようものなら罰が当たりそうで怖い。

年中温暖で湿度の高いバリだと石像の肌が熔けるのも苔が活着するのも早いのだろう。石像店で露中にさらされた売れ残りには既に苔がむしていたりする。自分の庭をもって、苔むした像を置きたいならばバリで買い求めるしかない。

バリのヒンドゥー教らしい勇壮な像も地衣類が覆ってまるでブロンズ像のような風合いになっている。こういうのも良い。