寂れているのが良い

Crea Travelersなどに載っている写真は全て開業当初の奇跡のようなショットばかり。本に載ってるような海にせり出したデッキチェアとアンブレラのセットも、スパの東屋もない。塩に侵されてベトついた様な朽ちかけた竹製のデッキチェアが置いてあるにはあるが、真っ白なクッションなんてものはない。そこに寝そべる気にはまずならないだろう。4日間の滞在中でそのデッキチェアを利用している人は現に一人も見ていない。

設備は大分老朽化している。2003年に開業したそうなので6年の間にここまで朽ちたことになる。エレベーターはドアの閉まりすら不確かで、ガクガクと不連続な揺れを起こしながら登っていく。鉄製の非常階段までもが錆びて底が抜けている。

プラスチックの照明や金属製の手摺、真っ白な布などというものは潮風の打ちつける絶壁沿いのホテルには非現実そのものなのだろう。だからこそ開業当初はその真新しさや高級感が際立つのだろう。しかしメンテナンスが十分にされない状況では朽ちるのは早い。

さぞかし洗練された、スタイリッシュなブティークホテルだったのだろう。昔が偲ばれる。カメラマンが写真栄えのするアジアンリゾートを撮りにきてはリゾート雑誌に載せた気持ちもわかる。ただ雑誌に掲載された世界はもうない。

それでもこの眺めひとつをもってこのリゾートにまた来たいと思う。

洗練された瀟洒な装飾建築が急速に輝きを失っていくことで一層、景観美がぐんぐんと引立っていく。絶景を切り取っているバルコニーの手摺、デッキチェア、窓枠などのフレームが朽ちていくことで海の美しさが強調される。朽ちていく侘びのようなものに演出される美しさのようなものを感じる。これはこれで味わいがある。古びた設えはこの場合、安らぎを構成している。


朝、ベッドから体を起こすと目の前には水平線が広がる。

波の音、鳥のさえずり、守宮の木を鳴らしたような鳴声。お茶を飲み、温かい風呂に入りながら、好きなだけ本を読む。風が吹き抜ける。ここでは好きな時間の過ごし方ができる。