月よみ山路 栗蒸羊羹

石川県は小松の老舗羊羹屋「松葉屋」の栗蒸羊羹。http://www.matsubaya.jp/

月よみの 光を待ちて帰りませ 山路は栗のいがの多きに
良寛坊の歌をとって考案された羊羹だけに、歌われている通りに栗が主役。竹皮に包んで蒸された渋い姿。羊羹部分の食感は切った包丁にこびりつく様な粘着質の羊羹と異なり、切ればボロボロと崩れるほどに粘り気が無い。「パサパサしている」と書くと宜しく無い印象を与えてしまいかねないが、この食感で正しいのだと思う。
栗がべらぼうに旨い。新栗を使っていることもあるのだろうが今まで食べた栗羊羹の中では比類なき旨さ。ほこほこっと崩れるような食感で、栗金団のような煮詰めたり加糖した甘さではなく、栗そのものが只管旨い。
羊羹部分は寧ろ栗を繋ぎとめる土台のようなものなのかもしれない。栗の甘味を邪魔することの無いよう甘さが控えめであるし、栗のほこほこっとした食感を楽しむべく、羊羹部分も容易に崩れる。栗の上品な甘さと食感をここまで引き立てるのに徹した羊羹にも感心しきり。
「栗が旨いな」
「ううむ。この栗が旨い」
「やっぱり栗が旨いな」

周りの反応など求めていないんだが、栗を見つめながら何度も何度も呟いてしまう。
ふと包み紙に目を向けると第22回 全国菓子大博覧会で 「名誉総裁賞」を受賞とのこと。この全国菓子大博覧会とは明治44年の第1回帝国菓子飴大品評会に遡る、四年に一度の菓匠の祭典であるらしい。第22回における名誉総裁とは三笠宮寛仁親王殿下とのこと。名誉総裁賞受賞の品は親王殿下自ら選ばれたのだろうか。内閣総理大臣に選ばれるよりも和菓子を本当に好いてそうな人に選ばれた和菓子のほうが旨そうである。皇族なんて幼少から和菓子を食べてそうではないか。あくまで根拠の無い印象の話だが。
第22回 (1994年)全国菓子大博覧会で 「月よみ山路」が名誉総裁賞、第23回(1998年)全国菓子大博覧会にて「ハタダ御栗タルト」が名誉総裁賞、第25回(2008年)全国菓子大博覧会にて「鳴門金時ポテト」が名誉総裁賞。む。皇族は栗好きなのだろうか。
「残りの一切れは私が食べる」と言い放つ嫁さんの目が怖かった。語調には、一方的宣言であって許可など微塵も求めていない響きがある。抗えば酷いことになる。草食な嫁を肉食にしてしまう旨さ。