蛇島、鱟、黄昏

マンゴーも入院中であるし、ダイビングライセンスを一緒に取得中の先輩夫婦も今週末は忙しいとのことで、フィリピン在住日本人グループのお誘いに便乗してプエルトプリンセサ地下河川公園ツアーに参加することに。どうもここしばらく気鬱なもので、家にじっとしているのが精神的に宜しく無いような気がしたので、外に積極的に出ることにした。

初日はプエルトプリンセサ市街から30分ほどのHonda Bayにて島巡り。第二次大戦前に本田さんという日本人と縁が合ったのだろうかと詮索したいたが、Hundaというスペイン語の「沈む」意の動詞hundirが転じたものらしい。湾内には13もの島々があり、プエルトプリンセサ市に来た人の典型的な観光地ということになっている。

いつの間に、出川と呼ばれ始めたガイドさん

気が早い。落ち着け。けつまづくぞ。




星の数ほどもいたヒトデ。

今日の予定は2島。最初はPandan島とやらに上陸する。シュノーケルを借りて砂浜を泳いで回る。浜から20mほど出ても水深は2メートルほどの遠浅で、海草の合間に珊瑚が点在し、手軽に熱帯魚を見ることができる。水が濁っており、感嘆するほどの美しさとはいかなかった。小一時間過ごし、次の島Snake島に渡る。


このSnake島が気分が良かった。海が別段綺麗だというわけでもないのだが、なんとなく心安らぐ。島が名前の由来の通り蛇のような細長い形状をしており、片側にはマングローブが広がる。浅瀬の中をぽつぽつと広がるマングローブの苗木がなんとも幻想的な光景を見せる。新しく群生を始めたばかりなのだろうか。なぜ若木ばかりがこんなに広がっているのか。別段人の手を加えているわけでもないので若木だけが散在するのがなんとも不思議である。この狭い島のどこにいたのかわからないが、どこからか来た犬が、辛うじて足の届くマングローブの浅瀬をジャブジャブと走りまわるのを遠目に半時間ほど眺めていた。



予想外の出会いもあった。カブトガニの成体の殻である。ここらの島では食べるらしいが、市場に出るような食材ではなく、たまに捕獲できる珍味のような位置付けらしい。同行した友人に片っ端から「カブトガニの殻がありますよー」なんて喚きながら、顔をひっつけるような距離で殻をひっくり返して観察している日本人を不思議そうにフィリピン人は見ていた。小学生の時の主役はカブトムシだったが、天然記念物という冠の架せられたカブトガニはなにやら神秘的な存在だった。脚が6対12本ある。第1,2脚が鋏状であるからして雌だと思われる。まだまだ海の水質は良いらしい。

余談だが、カブトガニカニよりもサソリや蜘蛛に近いらしい。絶滅危惧種であるカブトガニに寄生するカブトガニウズムシという寄生虫もこれまた絶滅危惧種であるらしい。一蓮托生。

夕方、港に戻る前方に丁度、夕陽が沈みこんでいく。紅でも橙でもなく、清々しい金色に一面が包まれて大層綺麗だった。こんなに見事な夕陽は久しぶりだ。前回見た素晴らしい夕陽がいつだったかを思い出すと、これまたセブからの帰りに飛行機から眺めた夕陽であった。フィリピンの海上で見る夕陽はどういう理屈かはわからぬが、黄金色で神々しい。10分ほど金色に包まれた後、雲が紅く染まった。普段眺める夕陽はこの紅い雲だけの場合が多い。

空が青から黒に変わる頃、左手の島から膨大な数の鳥が本島に向かって飛び立った。空を埋め尽くす迫力がある。よく目を凝らすと全て蝙蝠であるらしい。飛び立った島はBat島とのこと。納得した。毎夜毎夜、餌を求めて湾を横切って本島の森に餌を捕りに行くのだろう。膨大な数を仰ぎ見ながら、昆虫が食べつくされて皆無になった島を想像してみた。数万の蝙蝠がいる島に生息できるのは他にどんな動物なのだろう。

プエルトプリンセサの自然は美しい。ボラカイ島セブ島のような騒々しさもなく、それでいてエルニドのように閉ざされたリゾートと違い徹底的に綺麗に管理されたような気配もなく、長閑な人の営みや街並みもあるなかで、別種の安らぎがある。