公私 好き嫌い

先日に続いて、仕事上の改善点の指摘を個人的に受け取られがちだという先輩の悩みに附随して。フィリピンでは人とのつながりが非常に重要であるらしい。上司部下の仕事上の関係が成り立つには、お互いの家族や個人の私的な悩みを理解して信頼関係を築くことが重要となるとよく言われる。

部下との毎月の個人面談では、何か小生が改善すべき悪しき点を一点挙げるように強要しているのだが、散々言われ続けていることのひとつとして「自分の私事を話さない」ことが挙げられる。自分の家族やなんかの話を全然しないので仕事以外では関わりたくないと思っているのではないかと不安に感じると言われたこともある。Love lifeも含めてもっと話してほしいと。

内心、冗談ではないと思っている。Love lifeを話せだと。話さなければクビにすると脅されても話すものか。部下の話を聞いてもらいたい分にはいくらでも聞くが、自分のそんな話をするのは勘弁してもらいたい。結局、どの部下が彼氏に浮気されて別れたとか、どの部下は誰と付き合っているとか、妹の婚約者が気に食わないだとか、華僑の親がフィリピン人と付き合うことに反対しているだとか、彼氏を見つけてあげようと3回も合コンを設けて男を紹介したが、誰某はいつも相手のことを気に入らないだとか、そんな話まで把握するに至る。

お互いの家族の状況を理解し、キャリア上も配慮することは重要だと思うが、誰が好きだのそんなことを共有しなくても仕事上で信頼関係は築けるし仕事に差し支えは無いと正直思っている。皆の雑談にもっと入ってきて欲しいとのことだが、平均年齢が25歳の女性偏重のチームということもあってワイワイガヤガヤ恋の話が多くて、悪いが既におっさんである小生には全く興味がない。

これらのことなら笑い話になる文化の違いといった程度だがショックに受けたことがある。

とある部下が漏らしていた不満を他の子が気遣って知らせてくれた。小生には7人の直属の部下がいるが、7人には明確に小生のお気に入りとお気に入りでない部下に分かれていると。とある部下は「お気に入りではない」と思っているようで、だから注目度の高いプロジェクトがもらえず、人気の高い監査にも加えられないのだと文句を言っていたらしい。他の部下がそんなことはないと反論しても「あなたはお気に入りの部下だからわからないのよ」と言われたらしい。

認めよう。好き嫌いはある。仕事ができる子が好きだし、要求された基本的な仕事をこなせずに文句を言う子は嫌いだ。クライアントからクレームを幾度となく受けているその子に重要な仕事を任せられなかった。しかしきっちり監査ができるようになったら任せたいプロジェクトはいくらでもある。仕事で成果を出した人にはより高度で面白い仕事が与えられるし、そういう子を伸ばすべく会社は投資育成する。それら会社組織における仕組みや都合を個人間の好き嫌いという人間関係に置き換えてしまうところに精神的未熟さと公私混同を大いに感じた。自己客観視ができていないともいえる。フィリピン大学ディリマン校を優秀な成績で卒業したなんてことにいつまでもすがらないでほしい。これは言い過ぎか。

優秀で仕事の早い子だけで自分のプロジェクトや監査チームリーダーを固めてしまえばどんなに楽なことか。しかしそれでは他が育たないし、優秀な子が抜けた後に後任が困るだろうから未経験の部下をあえて選んで監査に臨んでいるわけだ。これもたかが数人といえども組織を任された人間にはあたりまえの期待値なのだろうが、骨が折れることには変わりない。仕事のできる子よりも仕事のおぼつかない子により時間を割いている。優秀な子は手がかからないもので自然とそうなる。しかしそこにはもうひとつ、手のかかる子は放置して残りの労力は自分のプロジェクトに費やすという選択肢だってあるのだよ。
先の件でその子の言うところの「お気に入りでないほう」に対する努力が微塵も解されてないことがわかって徒労感がどっと増した。部下に認められたくてやってるわけではないと強がっても、それでも部下に感謝されたくて骨を折ることは多いのだよ。

その「お気に入りでないほう」を自認する部下には、自分の評価が低いのは成果が出るような大きな仕事を任せてくれないからだと文句を言われたことが何度かある。自分の能力を低く見ていて自分を活かしきれていないと。その一方で1年半言い続けてきたその子のプロジェクトマネジメントやコミュニケーションにおける改善すべき点に関して進歩がさほどない。他の3人の同僚が持つプロジェクトや監査にその子を参加させて評価を仰いだのだが残念なほどに一貫していた。優秀な子ではあるのだが、その改善点に真剣に向き合わない限りこの会社でやっていくのは難しいと思っている。そんなわけでハイリスクハイリターンの今のその子にはハードルが高いであろうプロジェクトを任せることにした。無事にやり遂げれば非常に高く認知されることになる。それこそ今までの評価を覆すことになるだろう。しかしその子の問題を改善しなければおそらくやり遂げられない。一皮むけられるか、トドメの駄目出しになってしまうか。

お気に入りじゃないなどと言われたことに過剰反応してしまったのではないか。もっと期待の大きな人材に与えるべきチャンスを無理にその子に与えてしまったのではないかとの自分の中での疑念がある。いずれにしろ、できることはそこまで。与えられる限りのことはしたと自分ながら思っている。あとは乗り越えて生き残るかはその子次第。

好きだからでも嫌いだからでもないのだよ。