琥珀

針葉樹の樹液が1000万年以上の年月を経て固化したものが琥珀だそうだ。ポーランドリトアニアに挟まれたロシアの飛び地であるカリーニングラードで世界の琥珀の90%を産出し、残りがバルト海沿岸国で産出されるそうだ。つまり乱暴に言えば琥珀バルト海沿岸5カ国の非常に限定的な産物なわけだ。それにしてもなぜバルト海沿岸諸国に琥珀は集中しているのだろうか。ロシアには広大なツンドラ針葉樹林帯が広がる。至るところで採れても良さそうなものだ。永久凍土では固化しないのだろうか。それとも莫大な琥珀が地層に眠っているのだろうか。



琥珀と針葉樹の関係を裏付けるようにラトビアの首都リガからエストニアの首都タリンへの4時間の道のりは只管、杉林を眺める旅となった。

タリンのとある土産物屋に入って、蜂が中に閉じ込められた琥珀をみつけた。非常に状態の良い蜜蜂である。杉の樹液に運悪く足を絡め取られ、樹液ごと固化した1000万年前の虫。そう考えると理科と昆虫図鑑を眺めるのが好きだった子供心が再びもたげ始める。この蜂は1000万年前の針葉樹林を複眼で捉え、飛んでいたのか。ううむ。しかし、現生の昆虫を溶解させた琥珀に閉じ込めた人造琥珀という可能性も否定はできない。どうだろう。底に不純物が混じっていたり、歪んだ形をしているところが妙に説得力がある。24ユーロという値段は愛好家からしたら安すぎるようにも思うが、嵐の後に琥珀が打ち上げられていて拾えるような土地である。もしかしたらこんなものなのかもしれない。

「私も仕事だから売ってるけれども、こんなもの買いたい男の心境が理解できないわ」
「蠅だの蜂だのが入った琥珀よりも奥さんにアクセサリー買ってあげるほうが重要よ」笑顔で接客してくれるが、どことなく苦笑いな店員のお姉さんから妄想の声を聞く。男女の決して埋まることのない溝というやつを決定的にすべく、捨て台詞が頭の中に浮かぶ。
「女にわかってもらおうなんざ期待しとらんよ。男の浪漫ってやつだ」
この手の浪漫は男の大半にすら今や支持されない。時計や音響機器と違って。妄想劇場終わり。

ちなみに同じデザインの琥珀のアクセサリーがラトビアでは40米ドル、エストニアでは120米ドルで売られていた。エストニアは実感としては先進国である。琥珀を買うならばラトビアリトアニア、あるいは行けるものならばカリーニングラードで買うべきだろう。