シュテファン

新幹線への鉄道軌道変更修理の為だとかで昔は2時間半しかかからなかったブカレストからコンスタンツァへの列車が4時間半もかかる。彼是3年近く工事しているらしい。23時半にようやくコンスタンツァに着くと、プラットホームにはシュテファンが迎えにきてくれていた。街灯の少ない中、シルエットだけでも不思議とシュテファンがわかる。こんな観光でもなかなか日本から来ないであろう地に何年隔てても変わることのない友人がいる。なんて幸せなことだろう。

母親が経営していたヘアサロンの脇の土地を買い、今や立派な家が建っている。そこにお世話になることになった。翌日になって再会した両親のフローリとジョンの顔を見ると何やらこみ上げてくるものがあった。全く変わっていないようで、目を配れば皺が深くなっていたり髪に白いのが混じっていたり。そしてこの家族にも1歳半の娘、テオドラが加わった。

残念ながら4年前のシュテファンとデリアの結婚式には参加できなかった。それを未だに後悔しているのだがこうして再会できて嬉しい。シュテファンは昔、息を飲むような美しい子と付き合っていた時期もあり、シュテファンのどこにここまで美しい子を引き付ける魅力があるのかと首をかしげたぐらいだ。デリアと結婚すると写真を送って来たときには、グラマラスとは言いがたい風貌に若干驚きもした。しかし数日いるだけで納得した。とても陽気で気さくでよく笑い、かつ話題も豊富だ。

このシュテファンという男、随分と多分野に造詣の深い男で、こと剣道や武士道のことになると日本人で彼より詳しい男はそうは見つからないのではなかろうか。五輪の書を耽読し、中国風と和風をきっちり判別できる。「源誠十郎」という和名を持つ。ほかにもパイプ、ハム無線、カメラ、バイクなどのめり込んだら止まらない。そういや2001年当時の彼の渾名はあまりの軍事マニアっぷりにつけられたナトー。自分の好みを知り、自分の幸せには何が大事かを理解しており、世間の価値観や目に惑わされない。

「意気投合して盛り上がって勢いで結婚する若いカップルが増えているけれども、結婚はそういうことではない。お互いが自分をわかっていないと。。。」などと語る彼は妙に達観しているように思える。